サバアンダーR15

「あなたに抱かれるのは今夜限りね。」

明日、サバアンダーをたうてぃに塗る。

桜木町での待ち合わせ。10日ぶりに彼女に会う。

小ぶりのピアスにショートボブ。アウターの下にはツィードのワンピース。

「今日はどこ行くの?」

昨日から右耳の耳鳴りが酷い。金曜、仕事終わりで耳鼻科へ駆け込む。

「聴力検査しましょう。」

片側しか付いていないヘッドホンを付ける。

「右耳全く聞こえてないですね。」

「メニエールの再発です。」

土曜日。みなとみらいのホームセンタ。

「私、ホームセンターって初めて。すごい人出ね。」

「買い物とか行かないの?」

「家に外商の人とかが来るから高島屋くらいしか行かない。」

「そう。」

「私達ってさ、夫婦に見えるかな?」

「20代後半の君と俺だろ。どうかな、見えなくもないかな。」

耳鳴りがキツイ。高音が激しく聞こえ低音が聞き取れない。

処方されたステロイドを2粒噛む。

サバアンダーを塗るための刷毛を探す。

「広いからなかなか見つからないね。私何処にあるか聞いてくるよ。」

彼女が手を振りながら小走りに向かってくる。

小刻みに揺れる胸元。耳鳴りが激しさを増す。

「ペイントコーナーだって。」

刷毛を4種類選ぶ。「結構いい値段するんだね。」

「大丈夫だよ。黒ちゃんに精算してもらうから。」

「黒ちゃんて誰?新しい女。」

「違うよ。サバニの仲間。」

「ホントに。黒木瞳似の仲間じゃないの。」

「黒木瞳似の人はいないけど、年齢が近い人はたくさんいる。」

耳鳴りが止まらない。メチコバールを飲む。自分の声が頭に反響する。

「これからどうする。」

「日ノ出町の焼き鳥屋でも行こうか。」

「うん。いいよ。」

みなとみらいを背にして大岡川沿いを歩く。

監督の教え子のカヤッカーが川を行き交う。

「ネー。油を塗られるサバニって気持ちいいのかな。」

「多分、気持ちいいと思うよサバニにDNAがあれば染み込んでんじゃない。」

「さっき買った刷毛で油塗るんだよね。」

「そうだよ。」

「私も刷毛で気持ちよくなりたい」

日の出町駅を過ぎ。大岡川沿いの場末の。

LOVE・H・・・・・・・・・・・・L

「嫌いになったらいつでも別れてあげる。」

「私たちの事。奥さん知ってるの。」

高音の耳鳴りが激しさを増す。三回目のステロイドをIPAで流し込む。

夏の恋はいつも気温が10度下回った時に終わる・・・・

明日はサメの油を塗る。この刷毛で。馴染むように、滑る様に、感じる様に。

https://www.youtube.com/watch?v=yeDbyR9Xpdw

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